寒風に晒す為に屋外に整然と並べる天然寒天づくりは信州の冬の風物詩です。寒天は7割以上が長野県でつくられる特産品。主な生産地は茅野市を中心とした諏訪地方です。寒天は海藻のテングサを材料に凍結・乾燥、つまりフリーズドライ加工して製造します。諏訪地方の冬場の寒冷乾燥の気候が、寒天づくりに最適と、江戸時代から始まりました。海のない長野県で海産物由来が特産になっている。興味深い話です。
八ヶ岳を望む茅野市は、市役所が日本一標高の高いところにある高地。天然寒天づくりが盛んな宮川地区を訪ねました。寒天製造イチカネトの社長五味嘉江さん(60)は三代目、県内唯一の女性寒天業者です。12名のスタッフをまとめて祖父から伝わる伝統的な寒天づくりを守っています。
早朝、今では希少な木製の大きな煮釜でテングサを煮込みます。採取地や堅さなどで1番草、2番草と仕分けて時間差で釜に投入、煮込み時間の加減が品質を左右します。湯気に包まれた作業を仕切るのは釜長(かまちょう)と呼ばれる煮込み専門の職人です。
トコロテン状に固めた寒天を屋外の干し場(通称:庭)で自然に晒す作業は、やはり庭長(にわちょう)と呼ばれる専門職が仕切ります。
自然相手の寒天づくりは12月から翌年の2月までの3ヶ月間が勝負。特に干し場の作業は雪や雨など気象の変化を気にかけながら昼夜の別なく厳しい作業が続きます。まさに「冬の厳しさを活かした職人芸=冬の技」です。
また、諏訪地方には「天寄せ(てんよせ)」と呼ばれる寒天を使った郷土料理があります。赤と青に着色された寒天料理は冠婚葬祭には欠かせない縁起物。この地方ならではの寒天文化です。そんな天然寒天づくりに吉田一平アナウンサーが密着します。