心に残った監督たち
「出来ないことはやらないことにしたんです」
試合に勝った後、監督は言った。
高校野球長野大会で岩村田高校は24年ぶりにベスト4まで勝ち進んだ。
快進撃の立役者が球速100キロの細身の2年生エースだったことがまた話題を呼んだ。
チームを率いる花岡淳一監督は50歳のベテラン、かつて上田千曲でも4強に進出するなど
公立高校を実力校に育て上げるその手腕は県内高校野球関係者の間でもよく知られている。
「花岡先生はマジシャンだね」という声も聞いた。
どんな指導法なのか?メディアが知りたいのはそこだ。
「秘策」を知りたがる取材陣を拍子抜けさせるような一言で花岡監督は今年のチーム作りを振り返った。
「6月に入ってから出来ないことはやらないことにしたんです」
「(岩村田高校は)地域の進学校で選手はみんな真面目、
野球やってなければ叱られることのない生活を送るであろう高校生たちです。
だから、課題を与えればそこそこやる。出来ないことがあると何でも出来るように頑張っちゃう。
でも、もうこの時期に追い求めるのはそれではないと思った。出来ないことはやらない、
そのかわり自分が出来ること、やるべきことをしっかりやりきろう。出来ないことは他のみんなで補うチームにしようということです」
この方針に選手からは反発もあったという。特に3年生だ。
「出来ないことはやらなくていいって、俺たち見捨てられたの?」
といったニュアンスの言葉を監督宛てのノートに書いてきた選手もいた。
〝最後の夏〟を控えた3年生たちは大人が信じられないくらいナイーブな状態にある。
「それは違うと言葉を尽くしました」
自分が出来ること、自分がやるべきことをやりきる
それは言いかえれば、
いかにチームの勝利に貢献するか、という本質の追及だろう。
花岡監督はそれを明確にした。
遅球をコーナーに丹念に散らしながら細身のエースは投げ切った。
正面を突く痛烈な打球に対して内野手はひるむことなく立ち向かい、
外野手はあらかじめそこに飛ぶことが分かっていたようなポジショニングで大飛球を網にかけた。
酷暑の長野オリンピックスタジアムで展開した爽快な野球だった。