
「トントン物語」のはじまりはじまり~トントントントントン・・・むかしむかし、
信州の山の中、八千穂村であった本当のお話・・・
たつおくんという元気でやんちゃな
男の子がいました。

語り)
たつおくんは8人兄弟です。
ある日お父さんは、子供たちに言いました。父)
「お前たちに、家の動物の世話をして欲しい。
いいか、ひとつだけ守るんだぞ。
みんな、やるからには、トコトンやるように!」
語り)
一番上のお兄ちゃんは馬の世話を。妹はウサギ。
弟は羊を。そして、次男のたつお君は、豚めんどうを見ることになりました。

語り)
たつおくんのところに小さな2頭のブタが
やってきました。かつどんとゆうどんです。語り)
たつおくんの家は農家だったので、ブタを育て、たくさんの子豚を産ませ、売らなくてはなりません。
9歳のたつおくんも、毎朝5時に起きて、豚のえさを作ります。雪の降る日は、台所の水も凍るほど寒いのです。
たつお)
「米ぬか、大豆、野菜のかす、残したご飯も入れちゃうぞ♪まぜまぜ、まぜまぜ・・・
みんなーおいしいごはんできたよー」
ブタ)
「ブヒ♪ブヒ♪」
ご飯の用意も、くさいうんちのおかたづけも、たつおくんはブタちゃん達のお母さんのように毎日毎日がんばりました。
子豚が生まれる時のお手伝い。
ブタが病気にかかると、つきっきりで面倒を見ました。いつも厳しいお父さんの口癖は、やっぱりこれ。
「やるならトコトンやりなさい」
それに応えるようにたっちゃんは一生懸命でした。
すると・・・
不思議なことが起こりました。

ブタ)
「ねーたっちゃん、のどかわいたよぉ・・・ブヒッ!」
「たっちゃん、水浴びしたい!ブヒッブヒッ!ブー!」たつお)
「えっ、かつどん、いま、のどかかわいたっていった?
ゆうどんは、水浴びしたいの?」
ブタ)
「うん!ブヒッ♪」

語り)
たっちゃんがあんまり一生懸命ブタの面倒をみたので、
なんとたっちゃんはブタの考えていることが分かるようになったのです。
かつどんもゆうどんも、たっちゃんが大好き。
語り)
だから、毎日たっちゃんの小学校にも、ついて行きます。少年)
「やーい、たつお!お前の後ろに豚が付いてきてるぞ」
たつお)
「あっ!お前たちだめじゃないか。
お家で遊んでなさいっていいたのにぃ・・・」
ぶた)
「ぶーぶー♪たっちゃんあそぼー!たっちゃん
あそぼーよー!ぶーぶー♪」
語り)
たっちゃんは、かつどんとゆうどんが、本当の家族みたいに思えてきました。
でも、かつどんもゆうどんもいつかはお肉として食べられるために、売られて殺されてしまいます。
だから、たっちゃんはブタが生きている間ぐらいは、せめて幸せにブタの一生を暮らして欲しいと一生懸命お世話をしてあげました。
一緒に過ごす時間をとても大切にしていたのです。
たっちゃんの子供の頃は、ブタとすごす毎日でした。
ドドドドド・ドドドドド(機関銃の音)バキューン!
語り)
戦争が始まりました。
たっちゃんは、戦争で一緒に戦う馬の獣医さんとして南の島のジャングルの中にいました。
敵に打たれ、たくさんの友達が命を落としました。
そこは、地獄のようでした。
語り)
たっちゃんが31歳のとき日本は戦争に負けました。
荒れ果てた日本の姿を見て、たっちゃんは涙が止まりません。一面の焼け野原。
食べ物が無くて命を落とす人がたくさんいたのです。
たっちゃんは思いました。たっちゃん)
「日本には、あまりにも食べるものがなさ過ぎる。
なんとかしなくては!!」
語り)
たっちゃんは、幼い頃の幸せな出来事を思い出しました。

たっちゃん)
「あぁおいしい!世の中にこんな美味しいものがあったんだなぁ」語り)
小さい頃食べた「カツ丼」という食べ物。
びっくりするくらいおいしくて、幸せな気持ちになったことを思い出しました。
たっちゃん)
「日本人がもっと元気に、もっと体力をつけるためには、栄養たっぷりの豚肉が必要なんだ!」
『そうだ!たくさんの人においしくて栄養のある豚肉を届けよう!』

語り)
そのために・・・
たっちゃんは、世界中のブタのことをトコトン調べました。
「トコトン。トコトン」
なんと、イギリスやアメリカからすごいブタを連れてきて、その子供たちから、びっくりする位おいしい豚肉を作り出したのです。牧場には、『こんなおいしいお肉やソーセージ、初めてだ!』と、お客さんが押し寄せました。
語り)
たっちゃんは、そのすごくおいしいお肉のブタちゃんを日本中の農家に譲りました。
すると、日本中にたっちゃんのブタがどんどん増えました。「そんなにおいしいブタなら、育て方を知りたいよ!」
と・・・、

語り)
世界中から、たっちゃんの牧場にたくさんの人がやってきました。
たっちゃんは、みんなに熱心に教えてあげます。
気が付けば、世界中にたっちゃんの教え子がいっぱいいました。時代が過ぎ、いま、日本で一番食べられているお肉は、豚肉です。
『たくさんの人においしくて栄養のある豚肉を届けよう!』
トコトン頑張り屋さんのたっちゃんは、戦争に負け、何もなくなってしまった日本で誓ったことを、ちゃんと叶えました。
どうして、そんなことができたのか・・・

語り)
おじいさんになった たっちゃんは、埼玉の牧場のリンゴの木の下で話してくれました。「ぜーんぶブタちゃんが教えてくれたんだよ」といいました。
たっちゃんは、優しい気持ちでブタの世話をしました。だから、ブタの色んなメッセージを誰よりもちゃんと受け取って、みんなが喜ぶようなすばらしいお肉を作ることができたのです。
小学生の頃、八千穂村で過ごした時、ゆうどんとかつどんが教えてくれたことは、たっちゃんの一生の宝ものになりました。

語り)
みんなは、ブタちゃんもそうですが、生き物を食べるということは、生き物の大切な命を頂いて生きているんです。
だから、みんなも一日一日を『トコトン』生きましょう。(おしまい!)