社会医療法人財団 慈泉会 相澤病院
外科センター 下部消化管外科 統括医長
笹原 孝太郎 さん
2019.01.08 掲載
大腸は小腸で消化吸収した食物の残りである、液状から泥状の内容物から水分を吸収して固形の便にします。便は大腸を運ばれて肛門から排泄されます。大腸がんは大腸内側の粘膜から発生する悪性腫瘍です。
【大腸癌の疫学】
日本で新たに大腸がんと診断される患者さんは年間約14万人です。高齢化や食生活の欧米化などにより増加傾向にあるといわれています。日本の大腸がん罹患率(人口あたりの大腸がん発生数)は男性が第4位、女性が第2位です。大腸がん死亡率は男性では第4位、女性では第1位です。大腸がんの発生原因として2つの経路が知られています。1つは良性の腺腫が大きくなり、遺伝子変異から悪性化し、がんとなるもの。もう1つは正常粘膜が遺伝子異常を起こし、がんとなる経路です。また、大腸がんになりやすい遺伝性疾患も知られています(家族性大腸腺腫症、リンチ症候群など)。
【大腸がんの症状】
大腸がんも早期のものでは、ほとんど症状はありません。がんが大きくなると、出血して血便(便に血液が混じる)となったり、便秘や下痢などの便通異常、腹痛、腫瘤触知といった症状が現れます。
【大腸がん検診】
住民検診や人間ドックなどで大腸がん検診として便潜血検査が行われています。大腸がんや大腸ポリープから出血がある場合、便の中に混入しているわずかな血液を検出する検査です。少量の便を検査することで潜血の有無を判定します。早期がんや良性のポリープでも陽性になることがあります。
【大腸がん検査】
血便や便通異常などの症状がある場合や便潜血検査で陽性となった場合など、大腸がんが疑われる場合には、大腸内視鏡検査を行います。下剤で便を出して大腸内をきれいにした後に肛門から内視鏡を入れて、大腸内を観察します。大腸がんを疑う病変があった場合は、生検鉗子を内視鏡先端から出して、病変の一部を取り、病理検査で組織を顕微鏡検査します。検査でがんと診断されると、大腸がんの確定診断となります。
大腸がんと診断された場合、CT検査などで、大腸がんの周囲浸潤やリンパ節転移、遠隔転移(肝、肺、腹膜など)について検査を行います。必要に応じてPET検査やMRI検査なども行います。
【大腸がんのステージ(病期)】
大腸の粘膜から発生した大腸がんは、初期には粘膜表面にありますが、時間の経過とともに、大きくなり、大腸壁深くに広がります。大腸壁深くに広がることを浸潤といい、大腸外壁の漿膜を越えて浸潤すると、周囲臓器にも浸潤することがあります。
大腸がんが大腸壁深くに浸潤すると、壁内にある血管やリンパ管に大腸がん細胞が入り込むことがあります。癌細胞がリンパ管や血管を通って、遠くの臓器に運ばれ、生着して大きくなることを転移といいます。転移の経路には3種類あります。
①癌細胞がリンパ管を通って転移する場合。大腸がんに最も近いリンパ節に転移し、リンパ管を通って別のリンパ節に転移していきます。②癌細胞が血管内に浸潤し、血管内を通ってほかの臓器に転移する場合を血行性転移をいいます。大腸からの血液は静脈を通って、門脈、肝臓へ運ばれるため、大腸がんは肝転移が1番多く、2番目は肺転移です。③大腸がんが大腸壁の外側まで浸潤すると、癌細胞が腹腔内にばらまかれるように広がる場合があり、腹膜播種といわれます。
大腸がんのステージは深達度(大腸がんがどれくらい大腸壁に浸潤しているか。)、リンパ節への転移の程度、遠隔転移(肝臓、肺、腹膜などの他臓器転移の有無)によって決められます。ステージは0からⅣまであり、Ⅳが最も進行した状態になります。
【大腸がんの治療】
大腸がんステージ0では、がんが粘膜内にとどまっている状態であり、内視鏡治療の適応になります。ステージⅠ、Ⅱ、Ⅲの大腸がんでは手術療法が基本となります。肝転移や肺転移などステージⅣの大腸癌であっても、大腸がんと転移病変が切除可能なものは、手術療法が行われます。周囲浸潤などで切除できない場合は化学療法や放射線療法の適応になります。化学療法や放射線療法で腫瘍が縮小し、切除可能と判断した場合は、手術療法を行う場合もあります。
がんを切除してすべて取り切れた場合は、完全に治癒する可能性が高くなります。
【大腸がんの手術療法】
手術療法では、大腸がんが残らないように、腫瘍から離れた部位で大腸を切除し、転移する可能性のあるリンパ節を切除することが基本になります。多くのの大腸がんでは、腫瘍を含めた大腸を部分切除して、残った腸管同士をつなぐことになります(吻合)。
直腸癌で肛門に近い部分の癌の場合、肛門を残すと、癌も残ってしまう可能性が高いときには、肛門も切除して、人工肛門になる場合があります。
手術療法は開腹手術で大きな創で手術操作を行うのが一般的でした。
最近では、多くの施設で腹腔鏡手術が行われるようになってきました。
腹腔鏡手術は、腹部に5箇所程度、5mm~1cmほどの創をつくり、ポートという筒状の装置を留置します。二酸化炭素を腹腔内に注入し、腹腔鏡とよばれるカメラで腹腔内を観察します。ポートから手術機械を入れて、手術操作を行います。通常の開腹手術よりも創が小さく、術後の疼痛は少なく、身体に対する負担が少ない(低侵襲)といわれています。しかし、手術時間が長くかかり、開腹手術よりも高度な技術が必要といわれます。
手術の合併症は以下のようなものがあります。
①出血:術後に腹腔内出血が起きた場合は輸血や再手術が必要な場合があります。
②感染:大腸内にある細菌が創や腹腔内についてしまうと、創感染や腹腔内膿瘍が起きることがあります。大腸がん手術では約10%程度といわれています。
③縫合不全:腸管と腸管をつないだ部分にほころびができてしまい、腸の中の便が腹腔内に漏れてしまうことがあり、腹膜炎になると、緊急で人工肛門造設術を必要とする場合があります。
直腸癌手術に特有の合併症として、
①便通異常:便を貯留していた直腸が短くなると、1回の便量が減り、便回数が多くなることがあります。また、肛門機能障害がら、便漏れを起こすことがあります。
②排尿障害:排尿にかかわる神経障害から、排尿困難、残尿感などを起こすことがあります。
③性機能障害:性機能に関わる神経障害から、勃起障害や射精障害などを起こすことがあります。
【大腸がんの化学療法】
大腸がんに対する化学療法は以前はあまり効果がないといわれてきましたが、最近では、新しい薬剤も増え、分子標的薬も効果的であることが分かり、非常に進歩しています。化学療法とは、薬を使って、がん細胞を死滅させたり、増殖を抑制する治療方法です。大腸がんでは殺細胞性抗がん剤と分子標的薬を組み合わせて治療を行います。
化学療法は①手術後の再発予防のために行う場合と、②大腸がんが残っている場合や再発・転移したがんに対する場合の2通りがあります。①大腸がんで手術しても、リンパ節転移のあるステージⅢなどの場合、肉眼で見えないがん細胞が残っている可能性があり、術後補助化学療法が推奨されています。一般的には、術後6か月程度、外来で治療を行います。②大腸がんが切除不能な場合や、手術後に転移・再発を起こした場合など。がんをすべて取り切ることが難しいと判断された場合に化学療法が行われます。化学療法や放射線療法を組み合わせ、切除可能になり、がんを手術療法で取り切れる場合もあります。切除不可能な場合でも、化学療法により長期生存が得られる場合もあります。
化学療法はがん細胞の増殖を抑えたり、細胞に損傷を与える働きがあります。このためにがん細胞の増殖を抑えることができるのですが、同時に正常な細胞にも損傷を与えてしまうことがあります。このため、副作用としていろいろな症状が出現します。副作用の種類や程度は薬剤によってことなります。副作用が高度になると、化学療法継続が困難になる場合があります。
【大腸がんの再発】
大腸がんを手術した場合、すべて取り切れたと判断しても約17%に再発が起きるといわれています。大腸がんが再発する場合、約80%は3年以内に、約95%は5年以内に見つかります。大腸がん再発が発見された場合、治療を行うことにより、完治ができたり、長期生存可能な場合があります。
このため、手術後5年間は定期的な検査がガイドラインで推奨されています。
【大腸がんの予防】
大腸がんのリスクを下げる要因として食物線維を含む食品が知られています。また、運動による予防効果も確実とされ、日常のなかで体を動かす習慣が推奨されます。にんにくやカルシウムを含む食事(牛乳やサプリメント)も大腸癌リスクを下げる可能性があります。
大腸がんのリスクを上げるものとしては、飲酒(男性)、赤肉(牛・豚・羊)、加工肉(ベーコン・ハム・ソーセージ)、肥満、喫煙などが挙げられています。
【終わりに】
大腸がんは治療により、完治や長期生存が期待できるがんといわれています。住民検診や人間ドックを利用しての早期発見、早期治療が望ましいと思われます。大腸がんと診断された場合は、担当医とよく相談して治療方法を選択することが可能です。診断や治療方法に疑問があれば、セカンドオピニオンで他の医師に相談することも可能です。
参考:「もっと知って欲しい大腸がんのこと」大腸癌研究会:監修 杉原健一