諏訪赤十字病院・腫瘍内科部長 進士 明宏 さん
2018.06.01 掲載
『がん』は 正常の細胞ではない『がん』細胞が増えたことによって起こる病気のことを指します。『がん』の原因は、特定できない場合も多くありますが、対策可能なものとして下記が挙げられます。
①喫煙などの生活習慣、
②胃がんにおけるピロリ菌のような感染症、
③遺伝的要因によるものなど
以下に説明を加えます。
まず、私たち人間の体は約37兆個の細胞から構成されています。それぞれの細胞には寿命があります。細胞は自らが使い物にならなくなる前に、細胞分裂によって自分のコピーを作り、自分と同じ性質をもつ若くて新しい細胞に役割を引き継ぐことで健康を維持しています。
この細胞分裂のためのコピーがうまくいかないことは日常茶飯事です。しかし、うまくいかなかったものを修正して有効活用するか、廃棄するという、ミスを補う仕組みが備わっています。
しかし、このチェックする仕組みも100%完璧というわけにはいかず、これをくぐり抜けてそのままその細胞が生き残る場合があります。この元の細胞とは異なる性質をもつ細胞のことを『がん細胞』といいます。ただし、細胞1個1個はとても小さいので、1個『がん細胞』ができただけでは、みつけることは不可能です。ある程度まとまった量『がん細胞』が増え、例えば、どこかで塊を作る状態であれば、画像検査などで診断をすることが可能になります。こうなった状態が『がん』です。塊を作った状態でも自覚症状が全くないこともあるのがやっかいです。
この自分の細胞を正しくコピーして伝える仕組みをおかしくするものが、『がん』の原因となります。人は誰でも年をとります。年をとると色々な所の機能低下を自覚されると思います。細胞分裂のコピーミスやチェックミスも当然年をとると起こりやすくなるため、加齢は『がん』の原因と言えます。加齢しか原因が見当たらないことはよくあります。この場合『がん』にならないようにする対策はとれません(年をとらないことは不可能)。一方、喫煙など生活習慣は『がん』の原因になりますが、その習慣を是正することで『がん』になる確率を下げることが可能です。従って、声高に『がん』対策の中で生活習慣の是正が取り上げられる訳です。
話を戻します。『がん細胞』の集まりを『がん』といいますが、『がん細胞』は元々の自分の細胞とは異なる性質を持っており、本来その細胞がもつ役割を果たしてはくれません。また、『がん細胞』は自分達が快適に暮らせるように、正常細胞にいくはずの栄養を横取りしてしまうので、正常細胞の力が弱っていきます。大きく塊を作るようになると、さらに正常細胞は肩身の狭い思いをしますので、様々な嫌な自覚症状が感じられるようになります。結果、私たちの体調が悪くなり、体の抵抗力も弱って肺炎など感染症にかかりやすく、かつ、治りにくくなってしまうわけです。1個の『がん』細胞が誕生してから、症状がでるようなある程度の大きさに増えるまでは、ものにもよりますが、10~20年程度かかるともいわれています。
まだ、日本では『がん』=死 を意識する響きがありますが、検査でぎりぎりわかるぐらいの比較的早い段階で見つけた場合には、完治が期待できることが多く、そのためにどんなに生活習慣を整えている人であっても、年だけはとりますので、がんの原因を完全に排除できませんから、健診を受けていただきたいと思います。