「花火」と聞いて甘酸っぱい青春時代の思い出を1つや2つ語れればいいのだが、悲しいことにまったく持ち合わせていない…
江の島の定食屋でアルバイトをしていた時、1年の中で最もお客さんが多いのが、花火大会開催日だった。昼間から目まぐるしい忙しさで配膳をし、食器をひたすら洗う私にとってあんまり喜ばしくない一日。それでも花火大会が始まると〝大将〟が、「洗い物は後でいいから見ておいで」と言ってくれた。店の屋上は特等席。さえぎるものがなく花火を独り占めしている優越感。日常を忘れ、ロマンチックな気分に浸りながら、ふと魚臭いエプロン姿の現実に引き戻された。これもこれで私らしい。
当たり前のように見てきたまん丸の尺玉。日本の花火は豪快さの中に確かに繊細さを残し、奥ゆかしい。あんなに華やかな世界なのに、職人が手にするのは黒い火薬と茶色い紙。そこにまったく色はない。無機質に並んだ火薬の列は一体彼らの目にどう映っているのか…私には見えない世界があるような気がしてワクワクした。