新聞に乗らない内緒話

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コラム

野球と、ベースボール

 2月、プロ野球はキャンプに突入する。ファンにとって文字通りの〝球春〟で、今季の行方を楽しみにするムキも多かろう。

 子供時代、「大きくなったら何になりたい?」と大人から尋ねられたものである。男子なら「プロ野球選手」、女子は「お嫁さん」と、いまどきの子供に比べたら可愛いものだった。とあれプロ野球選手とはそのくらい価値があった。昨今は野球賭博に手を出す輩(やから)も飛び出すくらいだから、子供たちの認識も変わってきているかも知れない。

 先日、知人が「三田評論」のコピーを持ってきてくれた。慶応義塾の機関誌で明治31年3月に創刊されている。この大学には縁もゆかりもないが、知人は「お前の商売には関係あるだろう」とおもんばかってくれたのである。2002年(平14)8・9月合併号で、「野球とベースボールの話」という「三田演説会」講演録が掲載されている。
 講演は山下大輔さんによるもので、同年6月25日に三田演説館(福沢諭吉建造の、日本初の演説会堂)で行われた。山下さんについては今さらだが、慶大卒、プロ野球大洋、横浜で活躍し、華麗な守備でならした名選手。大リーグ傘下でコーチも務めている。
 なかなか読み応えのある講演録で、その一部にこんな記述があった。長くなるが山下さんの口吻(こうふん)とともにお伝えしたい。講演は、終盤に差しかかっている。
 「最後に『少年の夢』と題して、あるアメリカ人が書いた文章を訳して、ここで読み上げてみたいと思います」
 「カンザスに育った子供の頃、友達と魚釣りに行きました。ある夏の暖かい午後、そこに座って私たちは将来大きくなったら何になりたいかについて話し合いました。私は彼に『本物のメジャーリーガーになりたい。真のプロフェッショナルと言われるあのホーナス・ワグナー(殿堂入りした有名な選手です)のような』と言いました。私の友達は『合衆国の大統領になりたい』と言いました。私たち二人の夢は叶いませんでした」
 「実はこれを書いたのは第三十四代合衆国大統領ドワイト・D・アイゼンハワーなんです。アイゼンハワーの幼友達が大リーガーになったかどうかわかりませんが、この人のこの言葉が『アメリカ人にとって野球とは何か』ということを、明確に語ってくれているような気がするのです」

 こんなくだりもある。「ミラクル・メッツ」が登場する映画「オーロラの彼方に」(原題Frequency、2000年公開)に出てくるセリフ―。
 「(米国の)父親が子供に教えることは千年たっても変わらない。教えることは三つだけだ。それは憲法とロックンロールとベースボール」

 やはり「野球」と「ベースボール」は異なるようである。
 (日刊スポーツ I)

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