新聞に乗らない内緒話

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コラム

梅と、「春告魚」

はや2月―。

「春告鳥」と言えば鶯(うぐいす)。「春告草」は梅だろう。香りがよいので「匂草(においくさ)」、「香栄草(かばえくさ)」とも。一方菅原道真にちなむか、学問の象徴としての「好文木」(こうぶんぼく)など多彩な呼び名がこの花には、ある。
付け加えるなら「風待草(かぜまちぐさ)」も梅の異名だ。春風を待つ花として歳時記にはある。
「風待」と書いて、北海道増毛町を思いだした。北海道北西部、日本海沿岸の、海岸美に恵まれた港町である。
以前、留萌本線に乗ってこの町を訪ねたことがあった。
2016年に増毛~留萌駅間の路線が廃止。加えて厳冬のこの季節、春など望むべくもなく風雪に翻弄(ほんろう)され、立ちすくんでいるかも知れない。

盲腸線の、駅を降りると正面に「風待食堂」があった。
故高倉健主演の映画「駅 STATION」(1981年公開)のロケ地となった場所として、記憶にとどめている方も多かろう。「風待食堂」として登場した旧多田商店は、その後、映画の外観をそのまま残し、観光案内所として保存・活用されてきた。
主人公(高倉健)が倍賞千恵子演じるヒロインと心を通わせた居酒屋「桐子」のセットも近年、再現されたと聞いた。
2人が並んで座ったカウンター、八代亜紀の「舟唄」流れる紅白歌合戦のシーン、1970年代後半~80年をしのばせる壁の品書きなど、映画ファンにはたまらない趣向になっているそうだ。
散策すると日本最北の酒蔵・国稀(くにまれ)酒造に出会う。
「明治35年、旭川の第七師団は盛岡の第八師団と共に、寒さに強いという理由で日露戦争に出征します。この第七師団にはたくさんの増毛町民が入隊しており、激戦地ともなった二百三高地での死者数も多数となりました」と同社のHPにはある。
代表銘柄「國稀」は「のぎへん」に「希」、乃木希典にちなんでいることはすぐに理解できた。
かつて、ニシン漁で栄えた。その群れが押し寄せるとき、海一面にかもめが飛ぶ。アイヌ語で「かもめの多いところ」という意味の「マシュキニ」又は「マシュケ」が転じ「増毛」となった、といわれる。

そういえば「春告魚」とは、鰊(ニシン)を指す。
春が待ち遠しい。

(日刊スポーツ I / 2019年2月)

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