新聞に乗らない内緒話

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コラム

元気の出る「俳句」

 昨年11月から俳句を始めた。定年後の暇つぶし、と言うわけ。インターネット句会で、登録さえすれば誰でも参加できる(多少、経費はかかるのだが)。登録者は約100人、常連は15人ほどであろうか。
 で、投句したらいきなり「特選」に選ばれた。
 「達郎を聴いているイブ独り酒」。
 これが昨年12月の、特選句となった。クリスマスイブといえばおなじみ山下達郎のこの一曲。若い頃なら楽しみであった季節も老いては独り、酒をふくんで回想にふける。そんな意味を込めた。
 望外の光栄に思わず「ビギナーズラック」と謙遜してはみせたが、心の中では「ヒヒヒ」とほくそ笑んでいる。相変わらずの、いやな性格である。
 以来、毎月投稿している。成績はまずまずで、俳句仲間からは「久々の、期待の星」とおだてられた。
 それはともかく、投稿の多くに老後の悲哀を詠う句が混じるのは、参加者が高齢ということに関連するのであろう。一人の部屋で、コンビニで買ってきたレトルト食品を温める、といった風景。「独り言」「我が行く末」「忘れられ」「老いの春」「独り居」などのフレーズが毎回、登場する。いまさら嘆いてどうする、現実を直視せよと鼓舞してみるが、どうもこの自虐傾向?は自分にも及んでいる。
 「家を出で行くあてもなし日向ぼこ」、「おぼつかぬ足に合わせる冬の犬」などは2月の拙句。
 もっとも、句とは裏腹に私の日常は、従前からの仕事である独身寮管理人、ボランティア、行政からのアルバイト、加えて今回の句会参加とそれなりに忙しい。老いをネタに、大向こう受けを狙っているわけではないが、それでもサラリーマン時代にあった、あの追い立てられるような日々からはほど遠い。むりやり予定を組み込んで、余計な思いにとらわれないようにする。それが定年後の処世であろうか。
 これからはもっと明るい句を作ろう。ながき世を持てあましても何も出てはこない。
 「明日葉にしぶとく生きよの教えあり」
 「南南西あしたの予報は雨のち春」
 「春うらら日差しを遮るものはなし」
 こんな句を「春」3月以降、投稿している。気分だけは、明るくしたいのである
 というわけで拙句ばかりを書き連ねた。とんだお目汚しでした。最期は元気の出る秀句を披露しておきたい。昨年もこのコラムで紹介した。
 「春風や闘志いだきて丘に立つ」(高浜虚子)。

(日刊スポーツ I / 2021年4月)

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