新聞に乗らない内緒話

新聞に乗らない内緒話

コラム

ある「廃刊」

 電話をもらったのは、3月初旬であった。
 「根室新聞なぁ、廃刊だってよ」
 連絡をくれたのは大学時代の同級生である。卒業後、郷里・北海道に戻り大手地銀に就職、社長まで上り詰めた。退任後も関連グループの社長を務めており、今年7月で退職する。商売柄、金融関係に詳しく、今回の一報もその情報網に引っかかったのであろう。
 「まぁ、場所柄というのか、北方領土に関しては小気味の良い記事を掲載していてな。注目はしていたんだよ」と付け加えた。
 伝えられた報道をまとめると以下のようになる。
 同社は3月26日、夕刊紙「根室新聞」を3月末で休刊する方針を明らかにした。記者をはじめ人材の確保が困難なことを最大の理由とした。復刊の可能性は低く、事実上の廃刊。74年余の歴史はここで潰える。
 根室新聞は1947年(昭22)1月創刊した。根室市内で販売、紙面はブランケット判で、根室市政の動きや市内の話題などを掲載している。従業員は記者3人を含む11人。発行部数は公称2500部(最盛期は5000部以上あったそうだ)。通巻22249号となる。
 根室の主要産業であった漁業の衰退、加えてコロナ禍による広告収入、部数減などお定まりの要因もあったことだろう。とりわけ、彼にとって耳を疑ったのが、
 「会社存続のために、記者募集を行ったそうだが、応募者がゼロだったんだ。ゼロ…」

 私と根室との接点はほとんど無い。唯一は、ずいぶん昔の話になる。札幌での仕事に向かう途中、釧路に立ち寄った。サンマ漁の最盛期でこれが目当てであった。バラックの連なる飲み屋街、炉端焼きに入ったが「あいにく船(サンマ漁船団)が出てしまっててね。いいサンマはないよ。どうしても食べたければスーパーで買ってくるけど…」と腰を上げかけた女主人を制し、壁に張り出された、茶色に変色した「お品書き」を指さした。
 「その代わり、この酒を飲んでごらん」
 と、コップで差し出されたのが「北の勝」、本醸造であった。昔風に言えば二級酒クラスだろうか。これが旨かった。一升瓶を引き寄せラベルを確認すると醸造元は日本最東端の町・根室、「花咲ガニ」に合う酒であった。今年1月に発売された銘柄「搾りたて」は日本酒マニア垂涎(すいぜん)の一本であると「根室新聞」は伝えている。
 釧路~根室を結ぶJR北海道・花咲線は今夏、全通100周年を迎える。4月3,4日には
国鉄一般気動車標準色の塗装車両が登場するなどイベント盛りだくさんと「根室新聞」は伝えた。ただし、当日の記事は掲載されない。
 新聞は、3月で廃刊なのだ。

(日刊スポーツ I / 2021年5月)

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