abn 信州がんプロジェクト ~知ろう、考えよう、がんのこと~

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Q&A 教えて!がんのこと

〔手術療法〕〔薬物療法〕〔放射線療法〕など治療法はどのように決まるのですか? またどれを選べばよいのか、それぞれのメリット、デメリットを教えてください。

長野市民病院
呼吸器外科・乳腺外科部長 (副院長、がんセンター長)
西村 秀紀さん

2017.06.01 掲載

各臓器によって違いはありますが、手術と放射線は発生したがんの部位(局所といいます)を、薬物は血液やリンパの流れに乗って他の部位(遠隔といいます)へ転移したものを治す目的で使用します。

私が担当する乳がんを例にとって説明します。
乳がん治療の基本は手術と考えられ、小さくて進行したものでなければ手術のみで治ります。ただし手術で局所を全て取っても周囲に微小ながんが残っていることもあり、これが育って出てきたものを局所再発と呼びます。局所再発を予防するために放射線療法(照射)を行い、乳房温存術後の乳房への照射や、リンパ節転移が多数あった乳房切除後の切除部位への照射などがあります。
小さくても悪性度の高い(増殖速度の速い)がんや進行したがんでは、手術後に遠隔転移を起こして生命に影響を及ぼすことがあります。手術前の検査で遠隔転移がないことを確認して手術を行いますが、発見できない微小転移が既にどこかに隠れていて、時間の経過とともに大きくなり出現するからです。微小転移を抑えるために、血液の流れに乗って全身を巡ることができる薬物の力を借ります。

乳がんには化学(抗がん剤)、内分泌(ホルモン剤)、分子標的(分子標的剤)の3つ薬物療法があります。抗がん剤には脱毛、骨髄抑制(好中球減少→感染)、神経障害(手足のしびれ)などの辛い副作用がありますが、劇的に効いてがん細胞が完全に消えることもあります。ホルモン剤は内服が主体で副作用は軽く、ジェネリック品が浸透し経済的負担が少ないものの長期に及びます。分子標的剤も副作用が軽微と言われていますが、高価なのが難点です。

これらの薬物の選択はサブタイプによって決められます。サブタイプとはホルモンレセプター(女性ホルモンの影響を受けるかどうか、ERと表記)とHER2(ハーツーと発音、がん細胞の表面にあり増殖に関与)の有無で分類されたものです。表のように「トリプルネガティブ」、「HER2過剰発現」、「ルミナルHER2」、「ルミナル」の4つのタイプに分け、さらにルミナルは悪性度の高低でルミナルA(低い)、B(高い)に分けることもあります。

サブタイプ別の薬物療法も表に示します。
以前は手術を行い検査結果で薬物療法を追加していましたが、最近では進行したものには化学療法あるいは分子標的療法を先行し(術前化学療法)、手術を行うことが標準的になりました。縮小すると乳房を全部切除することが避けられ、また切除して病理検査でがん細胞が消失していることを確認できれば(病理学的完全奏効と言います)、治癒する可能性が高いことが予測されます。

全てのがん治療に共通して言えることとして、手術の目的は確実に取り切ることであり、手術だけで治癒を期待できますが、そのためには腫瘍から距離をおいて切除するために健常な部分も犠牲になり、臓器によっては機能が大きく損なわれます。放射線は手術のような痛みはないもののがん全てが消えたか確証を得られず大きいと消えないことがあり、また手術と同様に周囲の健常な部分にも影響の及ぶことがあります。薬物療法はがんの種類で効果(感受性)が異なるために使えるものと使えないものがあり、使う薬剤によって副作用も変わってきます。

がんと診断された際には、担当医からがんの特徴や治療法についてしっかりと説明を受けて、治療を進めてください。

サブタイプ ER HER2 薬物療法
トリプルネガティブ 化学療法
HER2過剰発現 分子標的+化学療法
ルミナル・HER2 分子標的+化学療法→内分泌療法
ルミナル 内分泌療法、時に化学療法を先行