新聞に乗らない内緒話

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コラム

花明かり

 商売柄、全国の観光地を訪れる。
 地盤沈下が叫ばれて久しい地方都市、それだけに観光にかける意気込みには並々ならぬものがある。昨今は、日本人はもとより外国人誘客に必死である。
 そんな折り、の話である。
 例えば新潟県佐渡市の「佐渡島観光PR動画」―「佐渡といえば、佐渡金山。金といえば、ヘヴィなメタル=ヘヴィメタル!まさに、メタルの 聖地ともいえる佐渡島に、ヘヴィメタルバンド『SADO METAL』(サドメタル)誕生」(そうですか)。「ブリカツ喰らえば 臓(はらわた)暴れ 血湧き肉踊るハアリャサッサー!」―と、のっけからシャウトしている。
 ご覧になるとよい。「SADO METAL」で検索すればすぐに出てくる。
 関門海峡を題材にした観光誘致 コンテンツ「COME ON!関門!~海峡怪獣~」を公開したのは福岡県北九州市と山口県下関市であった。両市が「地方創生推進事業の一環として連携し、関門海峡及びその周辺の観光地の魅力を発信するとともに、インバウンドをはじめ観光客の誘客を図るため、制作した」そうだ。なぜ「地方創生」が、突如の「怪獣」になるのか、お役所的解説が施されている。
 もうひとつ。京都府宇治市の観光アクションゲーム「宇治市〜宇治茶と源氏物語のまち〜」の冒頭、「みんなが大好きな宇治市がおそわれた」とあおった上で、ゲームが進行してゆく―
昨今の観光誘客、「注目を浴びる」手法とはこういうことなのであろう。
 過日遅い春を求めて地方へ出かけた。見事な枝垂れ桜、夜桜を見物してきた。夕刻からのライトアップ、それはそれで幻想的ではある。しかし、その光景を眺めながら、ふと「花明かり」(はなあかり)という言葉を思い出す。死語であろうか。
 本来の、満開の桜のその周辺は夜でもほんのり明るく映る。桃色というより白に近い、その花びらがおぼろな光を発するのであろうか。一方で観光のためライトアップされた木々、そして雑沓。強制的な不夜に咲き誇る桜は健気で、しかしちょっぴり不憫にも見える。
 そう言えばこの国の年末年始、街という街はイルミネーションだらけであった。きらびやかな風景は、夜でもひと商売を目論む商魂、都会的風景なのだろうが、その空騒ぎは本来の静謐との引換であろう。
 それぞれの土地にはそれぞれの美がある。その美的感覚に口を挟むつもりはないが、話題作りを目論む余り、本来の美、「花明かり」まで見失っては元も子もない。

(日刊スポーツ I / 2017年5月)

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