新聞に乗らない内緒話

新聞に乗らない内緒話

コラム

野球賭博と、「思ふにまかせぬこと」

 1993年(平5)4月20日、東京会館で「丸谷才一さんと『女ざかり』の会」が催された。『女ざかり』は、政府・与党から圧力がかかった大新聞の女性記者論説委員・南弓子が友人身内を動員、窮地を脱する新聞社小説(新聞小説ではない)で、この日のパーティはその出版絡みであったろう。

 席上、著者の丸谷才一さんがあいさつに立つのだが、その折りの裏話? が著書「挨拶はたいへんだ」(朝日新聞社発行)に記されている。
 要約すると、丸谷さんがある時、毎日新聞社社長に会った折「(毎日に)女の論説委員ってゐませんね」と問い掛けると、その1カ月後女性論説委員が誕生したという。さらに数カ月後、朝日新聞社にも女性論説委員が生まれた。その数年後、読売文学賞のパーティで、社長(当時)の渡辺恒雄さんが寄ってきて、こう言ったそうだ。以下は原文を掲載する(ちなみに丸谷さんの文章は全て旧仮名遣いである)。

「一つ教へていただきたいことがあるんだが…」
「はい、どうぞ」
「あの女の論説委員、モデルは誰です?」
「ゐませんよ。まつたくのフィクション」
「さうですか。いろいろ考へたがどうにもわからなかった」
「読売に女の論説委員はゐませんね」
「作らうと思つてね。一人いいのがゐたんですが、勉強させようと思ってワシントン支局へやつたのがまづかつた。アメリカの男と恋愛して、退社してしまつた」
 丸谷さんはこの文章をこう締めくくっている。
「世には、ナベツネさんでも思ふにまかせぬことがある」

 さて、清原問題に続いて、またも巨人絡みの不祥事が発覚した。巨人は3月8日、東京都内で記者会見を開き、新たに同球団の高木京介投手(26)が野球賭博を行っていたことを明らかにし、謹慎処分を科したと発表。渡辺恒雄最高顧問、白石興二郎オーナー、桃井恒和会長が揃って、引責辞任することになった。球団社長は「多くの方に迷惑をかけたことや(読売の)調査が及ばなかったことに責任を感じている」と謝罪した。

 飼い犬に手を噛まれる、とはまさにこのことで、球団挙げての刷新を誓った矢先の発覚である。さぞかしあの剛腕・渡辺恒雄最高顧問も再発防止へご腐心されたとは思うが、さしずめ「丸谷流」に言えば、
「世には、ナベツネさんでも思ふにまかせぬことがある」
ということか。心中お察し申し上げる。(日刊スポーツ I / 2016年4月)

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