新聞に乗らない内緒話

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コラム

黒猫と、都市伝説

地を穿(うが)つかのような豪雨は小康状態となり、やがて止んだ。
にわかに広がった西の空はもはや暮色で、薄紅色の余韻を漂わせている。雨に洗われたアスファルトが一面銀色に光るのは、道路脇に居並ぶ水銀灯がその威力を増してきたからであろう。
逢魔時(おうまがとき)、大禍時(おおまがとき)とは、こんな時間帯をさす。昼と夜が移り変わる頃、魔物と遭遇する、大きな災禍を蒙ると古人は怪しんだようである。

彼は急いでいた。幸い、一本道の車列は途切れ前方は広く視界が開けた。加速したその瞬間、目の前を黒い、小さな影が横切った。
急ブレーキを掛けると、車体に微かな衝撃を感じた。停車して目を凝らすと、どうやら黒猫を引いたらしい。車を降りようとしたその時、後方から激しいクラクションを浴びる。一本道に、大型トラックが迫っている。急かされるように発進した。
どうにも嫌な気分である。

夜は濃度を増し、ヘッドランプの光線だけが進路のすべてである。ふとバックミラーを覗いて思わず目を疑った。
黒い、子猫をくわえた親猫(であろうか)が後方からグングン近づいている。アクセルを踏んだがその距離は広がるどころかさらに接近してくる。思わず首をすくめ、ハンドルを切った瞬間、傍らを、轟音を上げて大型トラックが追い抜いていった。

「クロネコヤマトの宅急便、だったとさ。これぞ都市伝説!」と友人が笑った。

おどろおどろしい書きだしで申し訳ない。友人の話に「な~んだ」である。
ちなみに「クロネコヤマト」のマーク、創業者の小倉康臣が1950年代、海外視察した米国で運送会社「アライド・バンラインズ」社のトラックに描かれていた三毛猫マークにヒントを得たという。
親猫が子猫をくわえて優しく運ぶ姿に「お客さまの荷物を丁寧に取り扱う気持が表れている」として同社と業務提携、許可を得た。
これを受け社員の一人が国内用をデザイン、家で子供が落書きしていた猫の絵をもとに親猫も子猫も黒く塗りつぶしたという。
「宅急便」という名称は「一軒一軒のお宅に、急いで配達する」というポリシーから命名、商標登録された。

以上のことは、「社名・商品名検定 キミの名は」(朝日新聞beグループ著・朝日新書)に詳しく書かれている。引用させていただいた。

(日刊スポーツ I / 2018年9月)

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