新聞に乗らない内緒話

新聞に乗らない内緒話

コラム

無料で、田園体験!

定年退職後、時間を持て余した男たちは「そば(蕎麦)打ち」に目覚めるそうな。一時ずいぶん喧伝されたが最近はどうなのだろう。
当方65歳、退社5カ月目。実は最近「そば畑のオーナー」になった。ある会合の、ビンゴ大会の1等商品がこの「オーナー権」で目出度く?当選。有効期間は1年、という。
とはいえ食指が動くこともなく権利返上を願いでるつもりでいたが、友人にそば打ち名人がおり、話題を振ったら「そう言えばソバ栽培というのはやったことがない」と目を輝かせた。ならば暇つぶしも兼ね、重い腰を挙げることにした。

群馬県の西南部、甘楽(かんら)町の蕎麦(そば)オーナー事業・ちぃじがき蕎麦の里「蕎麦づくり入門」がそれで1アール(10メートル四方)の土地が提供された。種まきから収穫、そば打ち体験までが用意され、8月下旬から12月まで適宜、栽培作業をこなす。
で、8月下旬に現地1泊。作業に出向いたのだが、宿泊施設に乏しく、しかもそば畑は急峻(きゅうしゅん)山間部、地元民ならともかく、都会のドライバーでは太刀打ちできぬ難所と聞いた。
地元甘楽町に泣きついたら「それなら無料の空き家(中野邸=秋畑地区)があります。そば畑までは車で案内します」と有り難い申し出。そばに関心はないが、宿泊無料は魅力的である。過疎化対策の一環で「キラッと輝く『かんら』暮らし」がキャッチフレーズだ。「日本の里100選」、秋畑那須地区に位置する、自然に囲まれた住宅が準備された。

出向いてみるとなるほど幹線から外れた小道、急坂は片側がすぐ崖で、小型車1台通行がやっとの難所。「ここから上には人家はありません」という築100年の古民家に案内された。2年前までは住民もいた養蚕農家の巨大な家屋で思わず屋根を見上げた。素泊まりだから1泊分の食料、タップリ酒を持ち込んだがさてどうなるやらと室内に入って驚いた。古色蒼然(そうぜん)は当たり前だが、浴室、トイレ、キッチン、炊飯器、電子レンジ、食器、テレビ、アメニティ(シャンプー・歯ブラシ)、布団、シーツは新品が用意されているではないか。

しかも担当者は手に蚊取り線香、料理用の調味料まで携えていた。いたりつくせりの歓待に「本当に無料?」と思わず確認した。希望があれば何日でも泊まれると聞いて「宿泊料をとって観光事業にすれば。」と思わず余計なことを口走ったのは浅はかであった。
「そうなると旅館業法を念頭に置かねばなりません。規制もあり、今後の課題になっています」と関係者。早速「旅館業法」をひもといてみて納得した。
「ですからせめて、この土地へ出向いてもらって、この自然を堪能し、口コミ含め多くの人に甘楽町を知ってもらいたいのです。全てはそれからです」
関心のある方は甘楽町企画課(0274・74・3131)まで。

(日刊スポーツ I / 2018年10月)

★スポーツ、芸能情報は日刊スポーツで。ご購読申し込みはお近くの朝日新聞販売店、もしくは日刊スポーツ販売局フリーダイヤル 0120-81-4356まで