新聞に乗らない内緒話

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コラム

席を譲られて…

 いつもの、午前9時半過ぎの通勤電車。ラッシュのピークも過ぎ、座席は全て埋まってはいるものの、それでもゆったりとした車内である。つり革にぶら下がり一駅過ぎたあたりであったか、目の前の人物が突然目配せをして、「座りますか」と声を掛けてくれた。初めての体験であった。
一瞬たじろぐと、「僕、今立ちたいので…」と席を譲ってくれた。降車まであと5駅、「有難う、有難う」と言って座らせていただいた。こういうときは素直にならねばと、どこからか声が聞こえてくる。
 真っ赤な、全米プロバスケ「シカゴ・ブルズ」のキャップに、マフラー、グレーのジャケット、ジーンズ、茶の皮靴を履いた青年(20歳過ぎか)であった。黒のリュックを前に抱え、それには手作りのマスコットが数個(清涼飲料水の容器を模したそれには、「勝」の刺しゅうが見えた)、ぶら下がっている。彼女からのプレゼントであろうか。
 当方63歳。刈り上げた頭髪は確かにごま塩状態ではあるが、厚手の、皮のハーフコート、ジーンズといったいでたちである。会社勤めにしてはラフだが、人と会うような仕事がない日はこんな風体で過ごしている。
 「ガッカリしましたか?」―この話を知人に話したら、こんな質問を受けた。そんなことはない。むしろ厚意に感謝した。niftyニュースの「何でも調査団」に「【年代別&男女別】電車で席を譲られた時の気持と行動」というアンケート結果を見つけた。
30代以下~60代以上の男女を対象に、譲られて「座ることができて素直に嬉しい」「座ることができるのは嬉しいけれど素直に喜べない」「なぜかわからないので戸惑うがとりあえず座る」「譲られてまで座りたくないので丁重に断る」「正直不快なので座らない」の5項目に回答が寄せられている。
 「編集部まとめ」によれば「年代別に見ると50代までは『座る派』が70%前後と、ほぼ同じ傾向でした。60代以上では「素直に嬉しい」44%の一方で、「座らない」方も23%という結果も出ています。また男女別で見ると「座る派」は女性が82%に対して、男性は69%という差も見られました」とのこと。前述の「素直に嬉しい」派は60代になると一気に44%に跳ね上がっている(30~50代は概ね20%台)。このデータを見る限り、60代の当方は平均的な「座る派」で、驚くにはあたらないようだ。
 それより数年前、(長年の無理がたたったか)変形性関節症を患い、時折歩行がしんどくなる。その後遺症であろうか、電車の中で浅ましくも?物欲しげな表情を浮かべていたのではあるまいか。彼は、哀れんでくれたのかも知れぬ。
少々、反省している。

(日刊スポーツ I / 2017年4月)

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