新聞に乗らない内緒話

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コラム

スポーツ「マシン」

日本が、モスクワ五輪をボイコットしたのは1980年(昭55)だった。ソ連(現ロシア)のアフガニスタン侵攻に抗議する形で、国際社会に追随した。
マラソンの瀬古利彦、柔道の山下泰裕ら有力選手の夢が水泡に帰した。サッカーの、元日本代表監督・岡田武史は早稲田大学を卒業、古河電工サッカー部に籍を置いたころであろうか。
その岡田が、大学時代の恩師・堀江忠男(サッカー指導者、経済学者)に不満をぶつけた。

「ボイコットなんておかしいじゃないですか!」

堀江は即座に言い返した。

「岡田、お前はスポーツマンか? それともスポーツマシンか? スポーツマンならサッカーをやる前に、今、アフガニスタンの人々がソ連の攻撃で苦しんでいることをどう考えるんだ?それを考えないならお前はスポーツマシンだ!」

以上のくだりは「婦人公論」9月25日号に掲載された。引用させていただいた。

日大のアメフト問題を皮切りに、スポーツ界が混乱している。ボクシング、レスリング、体操、水泳―いずれもメダルに直結する種目ばかりだ。パワハラがしきりに喧伝され、旧態依然としたスポーツ界の体質が問われている。
メダルのためならうむを言わせぬ指導方法。それは指導する側、される側だけの暗黙の了解で、世間の常識から乖離(かいり)していることに気が付かない。メダル目当てのスポーツ「マシン」ばかりが増殖して、スポーツ「マン」が育たない。
2008年(平20)の、北京パラリンピックで車いす男子400メートル、800メートルで2冠に輝いた伊藤智也が、金メダルを獲得した感想を求められた時こう答えている。
「生きてきた人生の中で五番目にうれしい。子供が四人いるので」
4人の、我が子誕生が至福で、金メダルは5番目の喜びだと言う。市井の、生活者としての実感であり、おそらく「スポーツマシン」にこの発想はない。

メダル至上主義ばかりが悪者ではあるまい。顕著になったのは、スポーツ界組織運営の「プロ」不在、そして再生への必須条件は優秀な人材確保に他ならない。根本からの改革が求められている。あの長嶋茂雄も言っているではないか。
「ワーストはネクストのマザー」。スポーツ界再生の道は、ある。

(敬称略)

(日刊スポーツ I / 2018年11月)

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