新聞に乗らない内緒話

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コラム

「第2」の。

 卒業シーズン。いまでもこんな〝風習〟は残っているのであろうか。
 卒業式が終わると、女生徒たちはお目当ての男子に殺到、学生服の「第2ボタン」を奪い合った。なぜにまたと訝(いぶか)しく思ったものだが、その理由が分からない。
 ある物知りに尋ねてみたら、こういう理由ではないかと解説してくれた。1960年(昭35)製作の映画「紺碧の空遠く 予科練物語」がルーツであろう、と。
 山田五十鈴主演、脇役には杉村春子、岸田今日子の名前も見える。当時小学生であった私がこの映画を見ているはずもないが、そのワンシーンに、特攻出撃直前の青年が最後に引きちぎって、形見に残していったのが「桜と錨(いかり)」の第2ボタンであったらしい(DVDなど映像類を探してみたが残念ながら入手できなかった。ご存知の方がいればご教示願いたい)。心臓(つまりハート)に近いそれに、後世の人々は価値を見いだしたようだ。
 いずれにしても微笑ましい風景だが、私の高校卒業式はこのような風景とは無縁であった。それというのも規定の制服がブレザーで(第2ボタンは腹の上、である)、さらに当時席巻していた大学紛争のあおりで場末の高校もまた自由化闘争とやらで制服全廃、毎日私服で通学していたのである。
 社会に出てみると業界はナンバーワンこそ唯一無二で、「2番じゃダメなんですか」と言ったところで聞き入られない。
 本当かどうか分からないが、「結婚するなら、一番好きな人ではなく、2番目の相手がいい」などという〝伝説〟があるそうな。
 カーネギー鉄鋼会社を創業、ジョン・ロックフェラーに次ぐ史上2番目の富豪といわれた(昔の話だが)、米国実業家・アンドリュー・カーネギーの言葉に「最初に来た者が牡蠣(かき)にありつける。2番手が手にするのは殻だけだ」というのがあった。
 先手必勝、というわけだが、一方で「2番手商法」もある。新市場に最初に参入するリスクを回避、同種製品が市場に行き渡り消費動向が確認できたところを見計らい参入してゆく作戦である。株の格言に「二番底は黙って買え」がある。大底の反発に飛びつかず、再度の下値を見定めた上で大底手前の反発こそ買い、だそうだ。

 その昔、酔って街角の占い師に手相を見てもらったら「貴方はトップに立つ人間ではありません。先頭を楯に風を避け、その裏側で立ち回る2番手が吉」と言われた。頂上を目指す機会もなかったが、野心を持たなかった分、身の丈(たけ)の40年のサラリーマン生活(すでに定年を迎え、今は嘱託の身だが)もあと1年ほどで終わろうとしている。

茫漠たる「第2」の人生が待っているのである。

(日刊スポーツ I / 2017年3月)

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