新聞に乗らない内緒話

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コラム

「ゆきあい」の空

 倉嶋 厚 儀

 去る平成29年8月3日 93歳にて永眠いたしました
 ここに生前のご厚誼を深謝し謹んでご通知申し上げます
 訃報を知って、彼のホームページを開けたら、上記のような追記があった。子供はいなかったはずだから、関係者の手によるものであろう。
 若い人は知らないだろうが、60代前後の人間には「倉嶋 厚」は懐かしい名前である。
 長野県出身。気象庁防災気象官、主任予報官、札幌気象台予報課長、鹿児島気象台長などを経て昭和59年気象庁定年退職、その後NHK解説委員、ニュース番組の気象キャスターとして活躍した。

 その著書の「日本の空をみつめて」「雨のことば」「風と光と水のことば」などが示す通り、その解説ぶりは予報官然としたものだけではなく、空模様に「二十四節気」「七十二候」をあしらい、450色超とも言われる日本の伝統色で明日の天気を彩る感があった(毀誉褒貶はもちろんあったが)。
 そんな〝風流〟な生活が一変したのは1997年、妻泰子さんを胆管細胞ガンで失ったからである。それがきっかけとなりうつ病を発症、体重は16キロ減り、衣服の着脱さえ覚束なくなった。曲折を経て体調を取り戻したが、画面からは以来、姿を消した。
 「自分たちは一心同体の『掛け算型』の夫婦だったが、掛け算は片方がゼロになったら答えはゼロのまま」
 「生活の面でも精神面でも、互いに自立した『足し算型の夫婦』の要素を持った方がよい」
 そんな言葉を残している。
 2002年夏に発表した著書「やまない雨はない」は、2010年春に同じタイトルのドラマとして放映された。夫婦愛と闘病生活を描いたそれを、渡瀬恒彦が倉嶋を、妻役は黒木瞳が演じている。
 「ゆきあいの空」とは、「ある季節が去り、次の季節に移り変わろうとするころの空」のことですが、多くの辞書は、特に夏と秋の「ゆきあい」を指しています。八月は夏と秋の「ゆきあい」の季節です。

倉嶋厚「癒しの季節ノート」

 四十九日法要も終わるころ、彼岸へ渡ってゆくつもりなのであろう。空が、風が「ゆきあい」、もうすぐ秋がやってくる。

(日刊スポーツ I / 2017年9月)

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